『パット・メセニーを聴け!』を読んでパット・メセニーを聴くよろこび。

音楽評論家の堀埜浩二さんが書いた

『パット・メセニーを聴け!』を読んでます。

本を紹介しながら、わたしもメセニーのすばらしさについて書いてみます。

〇〇を聴け!

音楽評論家の本のタイトルに、

『〇〇を聴け!』というジャンル(?)があります。

ジャズ雑誌のスイングジャーナルの名物編集長だった

故中山康樹さんが書いた『マイルスを聴け!』という本が

最初ではないでしょうか。

ジャズミュージシャンは、セッションやグループの改変が多いので、

ディスコグラフィーは他のジャンルに比べて長くなりがちです。

マイルス・デイビスのように生涯現役のミュージシャン場合はなおさらです。

1冊まるごとひとりのミュージシャンのほぼ完全なディスコグラフィーで、

全作に思い入れを込めて解説をつけるというのが中山さんが

『〇〇を聴け!』で確立させたスタイルです。

大学時代に『マイルスを聴け!』を繰り返し読んで、アルバムを揃えていきました。

そのころは、サブスクはもちろん、沖縄では海賊版もほとんど買えない時代です。

実家の帰省のついでに新宿に寄り、ディスクユニオンのジャズ館や、

輸入盤屋巡りをして、CDを探すわけです。

聴けないCDは、本を読んで音を想像するしかできませんが、

それがとてもたのしかったですね。

初版からかなりの厚みがある本でしたが、

年々登場する膨大な海賊版も改訂して収録したので、

最終的には第8版まで出版され、文庫本で1153ページにまで膨れました。

その本の内容や情熱は、私を含めて多くのひとに影響を与えたと思います。

中山さんは『マイルスを聴け!』に味をしめて(?)その後も

ビル・エヴァンスやキース・ジャレット、

ボブ・ディランやローリング・ストーンズその他多くの

「聴け!」シリーズを刊行しています。

『パット・メセニーを聴け!』を書いた堀埜浩二さんも、

これ以外にももクロを聴け!とか出しているそうです。

中山さんにしろ堀埜さんにしろ、わたしが〇〇を聴けシリーズが好きなのは、

ディスコグラフィーの長いミュージシャンの変化をなぞれることと、

書き手の解説に愛があるところです。

だから、読みながらアルバムを聴くと、ほんとうに楽しい。

NHK-FMに「今日はいちにち〇〇ざんまい」という、

その日は朝から晩まで、ひとりのミュージシャンやジャンルにしぼって、

ひたすら曲を流す長寿番組がありますが、

たのしさが似ている気がします。

パット・メセニーの素晴らしさ

パット・メセニーは、ジャズギタリストです。

68歳で、50年近く活躍しています。

もう68歳なんですね、髪型がずっとライオンみたいで、

ボーダー柄しか着ないので、もっと若いかと思ってました。

メセニーの素晴らしさは、いくらでもありますが、

ギターという楽器の心地よさがプレイと音に溢れ出ていること、

聴いているひとを遠くまで連れて行ってくれることは、

間違いのないところです。

学生時代に最初にアルバム「Still life(talking)」を聴きました。

この曲とかが入っているアルバムですね。

Pat Metheny Group – Minuano (six eight) – Live HQ

曲も構成も、当時一世を風靡したパット・メセニー・グループの

素晴らしさそのものですが、

ギターソロが、もうね、聴く前と聴く後で、

自分がちょっと違う場所にいるんですよ!

曲の1:37にソロが始まって、すごいな、どこまでいくのかな、

と思いながら聴いて、3:30にソロが終わるくらいには、

気持ちよくて、心の場所が10センチ上がってます。

それが音楽を聴くわたしのよろこびで、

それがメセニーのギターだと思います。

リーダーとしても優れていて、

継続的に新しいユニットを作り、名盤名演を残しています。

比較的近年だとこれです。

Pat Metheny – Kin – Live At The Five Angels Theater, New York / 2014

なんか、力技と探求が凄すぎて、感動しか残らない。

このひとは、昔からのジャズも現代ジャズとも違う、

好きな道を、お酒もドラッグもやらずに、

生きている音を出し続けている感じがします。

もちろんジャズギタリストとして、世界の宝です。

トリオでギターを聴くと、ギターの幸せで満たされます。

Pat Metheny Trio. James (Live 2004)
やっぱりボーダー(太)。

クラシックギターの音もすごい。

アコースティックギターでなく、

ガットギターのジャズは意外と少ないのですが、

メセニーのガットギターは、ぞぞぞっと感動します。

スタンダードな曲だとわかりやすいです。

Pat Metheny – And I Love Her (The Beatles)
Pat Metheny with Charlie Haden - Cinema Paradiso
Pat Metheny with Charlie Haden Cinema Paradiso

音楽を等しく愛しているひとなので、

全自動演奏機械を作って共演アルバムを作ったり、

ノイズ(轟音)アルバムを出したり、

クラシックのギター組曲を作曲したり。

その中で現代音楽家のスティーブ・ライヒと出会わせてくれたのもメセニー。

Steve Reich w/ Pat Metheny – Electric Counterpoint (Fast Movement – Part 3)

美しいグルーヴがすごい。

これも通して聴くとほんとうに遠くに行けます。

大名盤だと思います。

あと、ちょっと番外編的なものとして、

メセニーは矢野顕子のアルバムに何度か呼ばれていますが、

メセニーが彼女に書き下ろしたこの曲。

矢野顕子 – Prayer

彼女の1枚目の弾き語りアルバム「super folk song」と

2枚めの「piano nightly」は、墓場まで持っていく系の名盤ですが、

1枚目のエンディング曲が、メセニー作曲です。

メセニーのメロディーの美しさを、ピアノと歌と詞で昇華させています。

目を閉じて聴いたら、メセニーのギターの音が聴こえる気がするくらいすごい。

メセニーもずっとあとのライブ盤でこの曲を弾いてますが(「inori」という名前で)、

この曲については、矢野さんに軍配が上がりますね。

あと、動画は貼りませんが、ジョニ・ミッチェルのツアーで、

バックバンドがメセニー、ジャコ、マイケル・ブレッカー、ライル・メイズ、

ドン・アライアスという名盤があります。

このツアーについてメセニーが、「フェラーリに乗っているのに街なかの

ブロックをうろうろしているようなもの」と言っていたという記述が

すごくメセニーらしくてまじめでかわいいですね。

堀埜さんの本のなかに

「マイルスの死をもって「ジャズの行方を提示し得るアーティスト」の地位はパット・メセニーに禅譲された」

という一文があった。

ジャズの行方自体は、ロバート・グラスパー以降のアーティストが担っていると感じるけど、

マイルスと同じくらい素晴らしい音楽を、マイルスのようにいろいろな形で、

マイルスのように大量に、マイルスのように若いミュージシャンと一緒に、

今生きているメセニーは現在進行系で残し続けている。

そういう意味では、マイルスのように巨大な現役のジャズミュージシャンはメセニーだけだ。

やっぱり、どうしても、アーティストは亡くなってしまうと、作品全体が固定されるので、

これ以上は進まない、閉じた空気感をまとってしまう。

生きているアーティストはそうではない。

だから、メセニーが活躍しているうちに「聴け!」ですね。

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