家賃を1年分前払いする短期前払費用は節税になるのか

節税目的で、家賃を1年分前払いしたいんだけど?と聞かれました。

今年は時短協力金もあり、前払いしようとするひとが多いようです。

結論から言うと、おすすめはしていません。

理由を説明します。

「短期前払費用」と呼ばれる節税

たとえば、事務所の家賃が10万円だったとします。

今年の12月に、向こう1年間分の家賃120万円を払うとします。

そうすると、今年の家賃は、

「今年の分120万円」

「前払いした来年の分120万円」

合わせて240万円となります。

経費が多い分、利益が減って、その分今年の税金が安くなります。

短期前払費用による節税と呼ばれるものです。

短期前払費用は、節税というより、利益の繰り延べ

確かに今年の税金は安くなりました。

でも、来年の経費を前倒ししただけなので、

前払いをやめた年は家賃が計上できず、利益が大きくなります。

利益を繰り延べたわけです。

それも大切なことではありますが、

短期前払費用には条件とデメリットがあります。

短期前払費用のしくみ

短期前払費用の本来の意味や使い方は以前書きました。

たとえば、年に1回払っている年会費には、「来年分」が混ざってますが、

重要性も低いし、毎年同額だから、全額費用でいいよ、ということです。

「前払い」なので、いちばん最初に払った年は費用が多めになって、

最後の年の費用は少なめになります。

「ズレ」は、本来良いことではありませんが、

あえてそのズレを利用して、節税をするわけです。

短期前払費用をする条件

短期前払費用には、ざっくりと次のような条件があります。

① 重要性が低いこと

金額や利益に与える影響が大きく、重要性が高いならば、

費用にせず資産計上しなければなりません。

節税になる時点で、利益に与えるインパクトは大きい金額だと思うので、

胸を張って「重要性は低い」と言えるかは微妙ですが。

② 等質等量のサービスの対価であること

対象にならない前払いもあります。

たとえば「税理士の年間顧問料」「雑誌の年間購読料」などは、

1年分前払いしても、経費になりません。

顧問料は「等質等量」ではないから、

雑誌は「物」なので「サービス」ではないからです。

③ 支払いが契約に基づいていること

契約が「月払い」なのに、勝手に1年分前払いで振り込んでも経費になりません。

契約内容を「年払いの前払い」に変更する必要があります。

④ 当期末までに支払うこと

契約通りに実際に支払をする必要があります。

⑤ 支払日から1年以内にサービスを受けること

翌年1月分から12月分までの1年分の前払いならば、

前年の12月(1年以内=翌年の12月分まで)にするという意味です。

前年の11月(1年以内=翌年の11月分まで)にすることはできません。

⑤ 年払いの前払いを継続すること

今年利益が出たから前払いするけど、翌年はしないというのはNGです。

継続することが前提です。

おもな条件だけでもけっこうたいへんです。

さらにデメリットもあります。

短期前払費用のデメリット

いちばん大きなデメリットは、資金繰りが悪化することです。

本来なら、毎月払えば良いお金を、

わざわざ1年分まとめて先に払うわけです。

普通はそんなことはしません。

お金が足りないので、銀行からお金を先に借りて、

毎月分割で返すのが借入金なので、

言ってみれば「借入れの逆」のことをしているわけです。

今年はお金があるから良くても、

来年、再来年もお金があるとは限りません。

将来、月払いに戻せば良いと思うかもしれませんが、

条件にも書いたように、すぐには止められません。

また、契約は相手がいることです。

5年後に月払いに戻すつもりだったとしても、

相手がダメという可能性があります。

このように短期前払費用にはいろいろな落とし穴もあります。

やるかどうかは、よく考えてから決めましょう。