青色申告をしている個人事業主が赤字だった場合、
基本的に、その赤字を翌年の黒字と相殺できます。
そして、前年の黒字とも相殺できます。
だったら、前年の黒字と相殺した方が、手っ取り早くて良さそうですよね。
実際には、手間を考慮するとそうでもありません。
その理由をざっくりと説明します。
赤字をくりこす
赤字のくりこしとは、
今年の赤字の分だけ「来年以降の税金を安くする」
ということです。
「今年」の100万円分の赤字
↓
「来年以降」の100万円分の黒字と相殺
というイメージです。
申告では繰越控除(くりこしこうじょ)と呼びます。
赤字は永遠に繰り越せるわけではなく、
赤字の出た翌年、翌々年、3年後までです。
相殺しきれなかった赤字は、4年目に消えます。
白色は対象外だったり、
繰り越さない種類の所得があったり、
白色でも繰り越す欠損金など、
条件や細かい決まりがありますが、
基本的に毎年期限内に青色申告している事業主が使えます。
赤字をくりもどす
赤字のくりもどしとは
今年の赤字の分だけ「去年の税金を返してもらう」
ということです。
「今年」の100万円分の赤字
↓
「去年」の100万円分の黒字と相殺
というイメージです。
申告では繰戻還付(くりもどしかんぷ)と呼びます。
こちらも条件などは色々ありますが、
基本的に毎年期限内に青色申告している事業主が使えます。
もうけにかかる税金、繰り越し控除が使える税金
繰越控除なら得するのは来年以降、
繰戻還付ならすぐに去年の税金が返ってくる。
こう考えたら、繰戻還付の方が圧倒的に良さそうに思えますよね。
ところが、実際には繰越還付するひとはあまりいません。
なぜでしょうか。
大きな理由のひとつが、税金の種類による違いがあって、
手続きがめんどうだからです。
前提として、一般的に個人事業主の儲けにかかる
代表的な税金は以下の4つです。
① 所得税
② 住民税
③ 事業税
④ 国民健康保険料
…国民健康保険料は厳密には税金ではないし、
世帯所得が元になり計算も複雑ですが、
基本的には、儲けが増えれば高くなるものです。
では、赤字を繰り越した場合には、
どの税金が安くなるでしょうか。
基本的には①から④まで全部です。
繰越控除は税金の種類に関わらず、
使いやすい制度だと言えます。
繰り戻し還付が使えない税金
ところが、赤字を繰り戻した場合安くなる税金は、
①の所得税、だけです。
②から④の税金には、
そもそも「繰り戻し」という制度がありません。
繰戻還付をしても、去年の税金が戻ってくるのは所得税だけで、
去年払った住民税、事業税、国民健康保険料は戻ってきません。
じゃあ繰り戻すと損するかというと、
そんなことはありません。
繰り戻しができない税金は、
原則通り、繰り越し控除をするのです。
長い目で見れば結果は同じ?手間が大きく違う。
住民税、事業税、国民健康保険料については、
繰り戻せないので、繰り越し控除をすれば、
ちゃんと来年以降に税金は安くなります。
税率にもよりますが、長い目で見れば、
結局安くなる税額はあまり違わない人も多いです。
しかし、「手間」は大きく違います。
まず、繰戻還付は基本的に税務署から確認があります。
追加の資料を求められたりするわけです。
一般的に、税務調査にもなりやすいと言われます。
加えて、市民税の繰越控除の手続きもしなければなりません。
手続きをしないと赤字が繰り越さず、市民税が高くなります。
方法は、基本的に住民税の申告を行うことになりますが、
市町村で手続き方法も異なり、例えば、那覇市では
繰越控除明細書と確定申告書のコピーで大丈夫でした。
お住まいの市町村に確認して言われた通りにやりましょう。
この追加の申告は、繰越欠損金が残っていれば、毎年することになります。
国民健康保険料は、市民税の手続きをすれば、
市町村内で連携すると思います。
お住まいの市町村に確認しておきましょう。
個人事業税は、県税事務所が税額の計算をしているため、
特に手続きをしなくても自動で繰越控除が適用されます。
…だったら住民税も賦課課税方式なんだから、
手続きなしにするべきでは?と思います。
こうしてみると、
個人事業主が確定申告をして、税務署から確認をされて、
さらに住民税の申告もするのは大変ですから、
繰越控除を選ぶのもわかります。
目先のお金も大切ですが、
全体の手間も含めて選ぶのが良さそうです。