個人事業で使っている営業車があったとします。
昔から使っていて簿価は1円です。
この車を、法人成りするので、法人に引き継ぎたいが、
車の売却金額は、1円でいいの?
車に限らず、備品や機械、船など、この相談は多いです。
なお、建物などの不動産は金額も大きく、
取り扱いや重要性も異なるので、
今回は有形の動産に限定し、ざっくりと原則を整理します。
個人が売却金額に悩む理由
なぜ、売却金額に悩むのでしょうか。
通常、車などを売る場合には、
なるべく高く売って儲けたいですよね。
そして高く売れば、売上や利益に対して
消費税や所得税などがかかります。
消費税の課税事業者が車を110万円で売ったら、10万円は消費税、
原価が10万円の車を110万円で売ったら、100万円が利益。
法人成りの場合、車を売る相手は自分の会社です。
自分が100%出資した会社なら、
社長の感覚として、譲る相手も自分自身のようなもの。
高く売れば、個人の税金は高くなる。
安く売れば、個人の税金は安くなる。
高く売れば、自分の会社で購入資金が必要になる。
安く売れば、自分の会社はただ同然で物が手に入る。
そのため、通常の商取引とは逆に、
「安く売りたい」と思うこともあるわけです。
簿価1円の車を1円で売れば、
売った側は利益もゼロ、売上も1円なので、
所得税も消費税もかかりません。
では、法人成りの際に、簿価1円の車を1円で売って良いのでしょうか?
法人成りの本にはどう書いてある?
法人成りの本にはどう書いてあるでしょうか。
税理士が書いた法人成りの本を見ると、
「売却価額は時価による」としつつ、
「時価を見つけるのは簡単ではないから、
簿価を時価とみなすことで問題はない」
理由として、利用することが目的の減価償却資産は、
利用済み分を差し引きした簿価がおおむね時価になるからと書いています。
つまり、「簿価≒時価なら、簿価でOK」という感じですね。
別の本には、
「時価の2分の1未満の低額譲渡の場合は時価で譲渡したものとみなされる」
とだけ書いてあります。
あえて細かくは触れていない印象ですね。
売却価額の基本は時価
減価償却資産の売却価額は、基本的には時価です。
時価とは通常の取引価額、つまり他人に売る場合の金額です。
個人事業で使用していた備品などの時価はいくらなのか。
例えば、古いパソコンや、ぼろぼろの棚など、
買い手もつかないものや、処分にお金がかかるものは、
時価はない(≒0円)のだから、
簿価1円≒時価とすることに合理性があります。
しかし、車は中古車市場があるので、
買取業者に見積もりを頼めば、いくらで売れるのかわかります。
もし見積もりに出して、ゼロ円でしか買い取れない、処分代がかかるなら、
簿価の1円は時価をあらわしていることになりますね。
安く売りすぎた場合にかかる税金
法人成りの際に、資産を安く売りすぎると、税金がかかります。
時価の半分未満の金額で売ったら、
「時価で売ったとみなして課税する」という決まりがあります。
ということは、簿価が時価の半額以上なら、
簿価で売っても基本的には問題ないとなります。
時価の範囲内というイメージでしょうか。
もし、譲渡益が出たとしても、
個人事業の場合には50万円まで税金がかからない
控除という制度もあります。
ただし、こまかい例外もありますし、
同族会社の場合には税務署がだめと言ったらだめ、
というこわい決まりもあります。
同じ半額でも、5万円と500万円では重要性も異なりますし、
売却する資産の性質によっても判断が変わるので、
いちがいに大丈夫とは言えません。
今回は車を例にしましたが、
個人から法人に譲渡する資産が何なのか、
同じ車でも、棚卸資産や、特殊車両などだと判断は変わります。
簿価でだいじょうぶなケースが多そうではありますが、
簿価や時価が、ある程度高額な資産がある場合は、
慎重に検討したほうが良さそうです。
今日の沖縄は梅雨の晴れ間で抜けるような青空。
梅雨明けがたのしみです。