聖書の訳がたくさんある理由と、読む理由

クリスマスなので、キリスト教の話です。

このあいだ、文語訳の聖書を買いました。

新旧約揃いの聖書はこれで5冊目です。

他にも新約だけ、旧約だけの聖書も何冊かあります。

これで、代表的な訳の聖書はひと通り揃いました。

どうして同じ聖書を5冊も持っているのか、説明します。

聖書にはたくさん訳がある

キリスト教で使われている聖書の内容は、

(カトリックの聖書は、ちょっとだけ内容が多いですが)

基本的には全部同じです。

ただし、聖書には、いろいろな「訳」があります。

わたしが持っているのは、

『新改訳』

『新改訳2017』

『聖書協会共同訳』

『リビンクバイブル』

『文語訳』

の5つです。

どれもどこの本屋でも買えて、

使っているひとが多いものです。

この5冊は、訳が違うだけです。

例えば、Amazonでドストエフスキーの『罪と罰』を検索すると、

訳者が違う本がたくさん出てきます。

基本的にはそれと同じで、

聖書にもいろいろな人や団体、

異なる時代の訳があるということです。

訳の違いの具体例

訳の違いは具体的にはこんな感じです。

旧約聖書から、私の好きな

詩篇127篇から2節を引用してみます。

「あなたがたが早く起き 遅く休み

 労苦の糧を食べたとしても それはむなしい。

 実に 主は愛するものに眠りを与えてくださる。」

(新改訳2017)

眠る前によく暗唱する句です。

意味としては、

自分の力でなんとかしようと寝ずにがんばっても、

からだや心を壊したりしてしまうこともあるし、

それよりも眠ったら元気になること感謝して、

しっかり休もう、みたいな感じですね。

同じ箇所が別の訳だとこんな感じです。

「あなたがたが早く起きるのも、おそく休むのも、

 辛苦の糧を食べるのも、それはむなしい。

 主はその愛する者には、眠っている間に、

 このように備えてくださる。」

(新改訳)

…辛苦、というと労苦よりもかなりシンドそうですね。

与えるのが眠りではなく、眠っている間に

備えられるものと訳されていて、ひろがりを感じます。

「空しいことだ

 朝早く起き、夜遅く休み

   苦労してパンを食べる人々よ。

 主は愛する者には眠りをお与えになるのだから。」

(聖書協会共同訳)

…これだと働きすぎをディスっているような印象もありますね。笑。

なぜむなしいのかという理由をはっきりさせた文章。

大切なことを見誤るな、という訳者の気持ちが強め。

「暮らしを支えるために朝早くから夜遅くまで

 身を粉にして働いたとしても、

 それが何になるでしょう。

 主は、愛する者には必要な休息を

 与えようとなさるお方です。」

(リビンクバイブル)

…むなしいという言葉を使わず、文章を反語にしています。

労苦・辛苦ではなく身を粉にして、

眠りではなく必要な休息と、

より親しみやすい言葉になっており、

訳者の解釈が多めに含まれています。

語りかけるような印象。

「なんぢら早くおき遅くいねて

 辛苦の糧をくらふはむなしきなり

 斯てエホバその愛しみたまふものに

 寢をあたへたまふ」

(文語訳)

…文語は親しみにくい反面、格調が高く美しいですね。

多くは語らない分、読み手の解釈の幅は広め。

声に出して読むと気持ちいいです。

どうしてたくさん訳があるのか

ほかにも、東北の方言で訳された「ケセン語訳」、

ラノベ的な文体がブッ飛んでいる「アライブ訳」、

訳者の意図を排除した直訳にこだわったものなど、

いろいろな訳の聖書があります。

いろいろな訳の聖典があるのは、

キリスト教の特徴です。

訳には必ず訳者や時代の意図が介在するので、

訳しかたで、意味がまったく変わることもあります。

たとえば、イスラム教のクルアーン(コーラン)は、

そもそも訳すことが禁じられています。

訳した本もありますが、

それは訳された時点でクルアーン、聖典ではない、

という認識だと思います。

これは、最初に書かれたものを歪ませない

ひとつの正しい方法だとわかります。

キリスト教が多様な訳を認めている理由は、

いろいろありますが、

そもそも原典が訳書だから、

という点は大きいと思います。

聖書にはイエス・キリストが出てくる「新約」と

エデンの園やノアの方舟などが出てくる「旧約」があります。

新約聖書は、基本的にギリシア語で書かれています。

しかし、イエス・キリストが実際にしゃべっていたのは、

ギリシア語ではなく、

主にアラム語やヘブル語だっただろうと言われています。

つまり、聖書の原書のイエスの話は、

イエスが語ったままの言語ではなく、

イエスの話の翻訳だということになります。

原書の成り立ちが翻訳したものならば、

さらに翻訳することにも、抵抗は生まれにくいですよね。

たくさんの訳を読み比べると、

新たな発見や、新鮮な気持ちになります。

同じ音楽のアルバムを、

マスタリングを変えたり、LPで聴いたり、

ヘッドホンで聴いたりするのと同じです。

ジーンズはみんな同じ生地のパンツだけど、

何本も持ってて履き分けるのと同じです。

要するに、たのしいからですね。

ちなみに、最初に読む聖書は、

『リビングバイブル』の新約聖書がおすすめです。

日常語で読みやすく、

旧約聖書は長すぎるからです。

本ならペーパーバックもあり、書店やAmazonで買えます。

アプリなら無料で読めますよ。

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